おかっぱヘアの殺人鬼Foot in MouthEmbarrassedAngry

「お金と殺人」がストーリーの根幹にある映画を二つ。監督・脚本は、かのジョエル・コーエンとイーサン・コーエン兄弟。一つは『ノーカントリー』2007年、もう一つは『ファーゴ』1996年。

『ノーカントリー』は血も凍るようなプロフェッショナルな殺人鬼。一方の『ファーゴ』は、堂に入った殺し屋家業の動きとは決して言えず、滑稽さをも感じさせるが、シーン後に何とは知れず悪寒が走る。また両者には、音楽・音響面での面白い違いがある。『ノーカントリー』では、音楽らしきものはかなり割愛し、自然に聞こえてくる環境音がメインになっている。だが一方の『ファーゴ』は、サントラが効果を上げる。弦楽器が奏でる哀しげな調べに乗せ、舞台となるアメリカ中部の雪景色が映し出される。時には雪道を走るパトカーとその寂しげなメロディが重なり合う。

『ノーカントリー』で異彩を放ったのは、殺し屋役のハビエル・バルデム。通常、映画で描かれる殺人鬼のヘアスタイルを想像すると、髪は短いか長いか、のどちらかではないだろうか。基本はすごく「男」を意識させる雰囲気。角刈りだったり、ボールドヘアだったり。長髪の場合は、ぎしっと後ろで束ねたストレート長髪、真ん中分けの束ねないロングストレートヘア、ちょっとカールがかかったミディの長さヘア、など、か。


murderer
だが、2007年の『ノーカントリー』では、殺人鬼はおかっぱヘア(笑)。演出家、ヘアメーク、キャスティングプロデューサー、何れが活躍したのか、この意表をつくヘアスタイルは、先述の殺人鬼ヘアスタイルの定義を根底から崩したように思う。

このあり得ない?ヘアスタイルは、ハビエル・バルデムとの組み合わせだからこそ”活き”ている気がする(笑)。かなり濃ゆいラテンの目鼻立ちにこのヘア。だが、そもそも二枚目のバルデムなのであり、他の映画では”普通”のヘアスタイルでそのハンサム度合いをしっかりと披露している。

大金の入った鞄を見つけて逃走する男。そのお金を取り戻すために雇われた殺し屋役のバルデム。ピストルやマシンガンが一般的?な凶器になるところだが、この殺人鬼が使う凶器は、ホース先端から圧縮した空気を一気に出す酸素ボンベのようなもの。この不思議な凶器を抱え、無表情でモーテルの廊下を歩く彼の姿はそれだけで恐怖感を煽る。

一方の『ファーゴ』。こちらは、”王道的”な殺し屋ヘアスタイル(笑)。この映画は脚本も素晴らしい。北欧系移民が多いと言われるアメリカ中部の町が舞台のため、話す英語も独特である。夫婦の会話、警察官同士のやりとり、聞き込み時の目撃者との会話は、不思議なリズムと響きがあって、滑稽な会話にすら感じさせる。英語がわからなくともそのユニークさと滑稽さは理解でき、充分楽しめると思う。

また、キャスティングも素晴らしい。最初は偽装身代金誘拐だったはずが、歯車が狂い始めて殺人事件へと発展する。誘拐事件を計画する役のウィリアム・H・メイシー。妻の父親が経営する中古車販売のセールスマネージャーで、いわばマスオさん状態。多額の借金返済に困窮し、偽装誘拐を企てる。誘拐を依頼した男がちょっとした手違いから人を次々と殺してしまう。計画が狂い、刑事まで介入してくる中、戸惑うどうしようもない男、小心者の男、この役をメイシーは巧みに演じている。そして殺人事件の担当刑事にはフランシス・マクドーマンド。妊娠7〜8ヶ月でお腹の大きい敏腕刑事役。アカデミー賞の主演女優賞獲得は大いに納得できる、傑出した演技だった。マクドーマンドの夫役、ジョン・キャロル・リンチもいい。切手の絵柄募集に応募する、のんびりとした専業主夫(多分)役である。出番はほんの5分程度ながらも、彼の存在があるだけで、通常はこの町は平和な町であり、血なまぐさい今回の連続殺人事件は希有な出来事なのだということを教えてくれる。

『ノーカントリー』は、アカデミー賞作品賞、監督賞他を獲得しただけでなく、ゴールデングローブ賞にも輝いた。バルデムは助演男優賞を獲得。『ファーゴ』はマクドーマンドの最優秀主演女優賞、脚本賞を獲得。私個人の意見としては、全体的に『ファーゴ』の方が映画として優れていたと感じる。だが、両方とも見る価値のある映画だと思う。是非ご覧いただきたい。